2017年7月1日土曜日

ドロドロした中に...【リリース】<感想>

古谷田奈月さんの第30回三島由紀夫賞候補作になった作品です。
「星の民のクリスマス」や「ジュンのための6つの小曲」のような優しく穏やかな雰囲気ではなく、官能的でドロドロしたものでありながらも、目を醒まされるような展開に何度も引き込まれました。また、随所に織り込まれた、思わず読み返したくなるような細かい伏線も見所です。
 
舞台は、同性愛が多数派となった世界。
そこで、少数派になった人達が起こしたテロと、その裏のいろんな想いが渦巻いている様がドロドロと描かれています。
主に、<ビィ>と<エンダ>という二人の人物の視点を交互に物語は進みます。
エンダ視点は官能的で重々しい場面が多く、ビィ視点の方が甘酸っぱいような、“青い"ような若さを感じる爽やかな場面が多いです。
個人的にはビィ視点の方が好きです。中盤のドロドロさが私には重すぎて...。
でも、その中でロロという女性の“感情をうまく言葉に出来ない"というありようには深く考えさせられました。いい意味でも、悪い意味でも...。
同性愛が多数派という今の現実とは違う世界での愛や恋、友情、家族、社会が描かれているので、人間関係に悩んだときに読むと、新しい価値観が得られて良いのではないかと思います。私は、エンダのボナへの想いと、ロロの周囲への想いが想像したこともないようなものだったので、とても印象的でした...。

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