2017年6月30日金曜日

社会や心をテーマにした短編【5まで数える】<感想>

タイトルと同名のものを含む6つの短編集で、内3つは社会風刺的な小説です。
動物愛護や、集団ヒステリー、エセ科学商法などを扱った話なのですが、社会風刺系の作品をあまり読まない私には、かなりショッキングな展開でした...。 対象を酷く描くことで、より強く風刺しているのかと思いますが、悲しいです...。  
ただキャラクターは魅力的でした。特に疑似科学バスターズは最高です。書き下ろしの前日譚「バスターズ・ライジング」では、より堪能できます。ホークアイの宿敵ロクスタの人柄も分かります。ただの悪役かと思ったら、かなり狡猾な人でした...。
  
私が一番オススメなのは、書名と同タイトルの「5まで数える」です。数が分からない男の子が、教会でのある出会いをきっかけに成長していく話です。大人と子どもの発想の差に悲しくなる場面もありますが、主人公アキラの気持ちが終始伝わってくる作品です。タイトルに惹かれて、手に取った本だったので、同タイトルの作品が好みだと何だか嬉しいです。
最近、発達障害を抱えた主人公の作品が増えた気がします。それだけ、発達障害は症状が多く、抱えている人が多いのかもしれません。

2017年6月25日日曜日

アニメ化して欲しい音楽小説【ジュンのための6つの小曲】<感想>

古谷田奈月さんの「星の民のクリスマス」に続く二作目です。
今回は、素晴らしい歌の才能を持ちながらも発達障害(※作中で明言されてあるわけではありません。)の少年ジュンの物語です。
 
彼の見る世界は、色鮮やかで、生き生きしています。周囲から蔑まれながらも、自転車や楽器と友だちで、言語の持つ意味に違和感を感じながらも、音に色を感じる...という、現代社会では生きづらいながらも、美しく尊い世界を持っています。
 
ちょっとした偶然から、彼と交流を持つことになったトクの一家との関係も、とても魅力的です。冷たいよう優しく思慮深いトク、トクに疎まれるほど明るい父親カン、優しく温かい母親エリ...。カンの明るさに笑いが漏れ、エリの温かさに涙させられる場面は幾度もありました。
ジュン自身の家族よりも、彼らとの関係の方が多く描かれることで、家族に対する視点を広くしているように感じます。
 
他に、中学生の彼ら学生生活なども、面白かったのですが、この作品の一番の魅力は、冒頭にも書いたジュンの見る色鮮やかな世界です。
音が色を持ち、色が音を持ち、楽器や道具の気持ちを感じる彼の世界を映像作品にすれば、どうなるのかとワクワクします。昨今、音楽をテーマにしたアニメ化作品が増えているので、この作品もアニメ化したら、嬉しいと思います。

移民への考え方が広がる作品【カブールの園】<感想>

第30回三島由紀夫賞受賞作品。
日系2世のアメリカ人女性の話です。
作者の宮内悠介さん自身が少年期をニューヨークで過ごされていたからか、文章が外国的で、情景も生々しかったです。
 
有色人種としての差別は、想像していたけれど、親との考え方の違いによる衝突も移民の方が大きくなるという点には、考えが及びませんでした...。
グローバル化が進んで、世界中で移民問題も顕著な今、いろいろと不満がぶつかり合うけれど、どのようにしていくべきなのか。いろんな立場のいろんな意見がある中で自分たちが守るべきものが、作中の「最良の精神」なのではないかと思います。
 
同時収録の「半地下」は、父親に付いて渡米した姉弟が、父親が失踪した後、生き抜いていく話で、「カブールの園」とは少し雰囲気がアングラ寄りです。
また、移民の言語に関する話で、ずっと日本で日本語で暮らしてきた私は想像も出来なかった話でした。
なので、感想がうまく言葉に出来ない...。ただ、読み終わると、納得のため息が出ました...。
 
どちらも、移民への視点が増える作品だと思うので、移民問題に興味のある人、移民に嫌悪感のある人にオススメしたいです。

2017年6月23日金曜日

日常の不安と同性愛故の葛藤を優しく包むBL 【おはようとおやすみとそのあとに】<感想>

コック見習いとマイペースな美人大学生のカップルの日常系漫画。
ただし、どちらも男だ!
しかも、元々同性愛者というわけではではなく、お互いを特別に想い惹かれ合ったというタイプのカップル。
なので、同性同士のカップルへの世間からの目や、他の異性との関係などを意識した葛藤がガッツリ描かれています。
仕事や人間関係の悩みに対する葛藤もいいんだけど、BLだからこそ描かれる、こういう心理描写は美しくて尊い...。
また、基本的にはラブラブカップルなので、イチャイチャもホモセックスも描かれてます。本番シーンが苦手な人は要注意!

無料Web漫画サイトのフルールにて、
連載していた作品ですが、もう連載は終わり、短編集も出ているようです。
また、同じ作者の新作「恋かもしれない」は現在も連載中なので、気になる方は是非是非!

2017年6月21日水曜日

ラブキュンでもドロドロでもない恋愛【青が破れる】<感想>

第53回文藝賞受賞、第30回三島由紀夫賞候補作品。
ラブストーリーといえば、「恋の始まり」「運命の出会い」などのキャッチコピーの似合うような恋愛の初期、またはそこから中盤を描いたものをよく目にします。
しかし、この作品は恋愛の終盤を、寂しくも優しく、切なくも爽やかに、描いています。
他人同士だからこそ伝わらない、愛、思いやり、慈しみ...。そういった言葉にならないようなものが静かに描かれているのを読むと、恋愛は始まってからが難しく、美しいものだと改めて感じます。
単行本書き下ろしの「脱皮ボーイ」は付き合い始めたカップルの話、「読書」は別れたカップルの話と、3つとも違う雰囲気ではありますが、ラブキュンでもドロドロでもないカップルたちの通じ合い、通じ合わない想いに、しっとりした気持ちにさせられます。
「脱皮ボーイ」の方は、終わり方にクスッとなります。

2017年6月20日火曜日

近未来SF×男子高校生×サブカル 【ロミオとロミオは永遠に】<感想>

日本人だけが残された近未来の地球。その超難関男子高校で繰り広げられる日常、友情、バトルに、脱走劇......。裏には政治や甘酸っぱい恋もあったり...。
静かでミステリアスなイメージのある他の恩田陸作品とは異なり、終始ハラハラドキドキ、スリル満点の作品です。
展開も登場人物たちも、少年マンガ的でとても読みやすいので、恩田陸作品を読んでみたことのない人にもオススメです♪

作者本人は文庫版あとがきにて、「ハッピーエンドのつもりが、絶望的に感じる」と語っていますが、
ハッピーエンド好きにも、バッドエンド好きにも、是非読んで欲しいです。
何度か読み返すと、作者の言う通りに感じますが、そこも少年マンガ的で、想像を掻き立てられるので、私は好きです。
ただ、冒頭はかなり過激な描写があるので、ご覚悟を...!
 
また、 20世紀のサブカルチャーを数多くオマージュされ、ギッシリ詰まっているので、詳しい人はそういった部分も楽しめるのではないかと思います。
 
他にも、終盤の展開には、東京オリンピックが近い今、読むと余計に引き込まれて興奮するかも...?

2017年6月18日日曜日

記憶の持てない世界というSFからのアプローチで... 【失われた過去と未来の犯罪】<感想>

全人類の「記憶」の仕組みが突然壊されたという世界での人々の話です。
突然、誰もが「記憶」が保てなくなるという非現実的な設定ですが、この作品の中では、その事件そのものが重要なのではありません。
第一部では、それに対して混乱しながらも社会を維持しようと模索していく人々、
第二部では、適応し始めた社会で、新たな技術に翻弄される人々が描かれています。
「記憶」が保てないという世界により、第一部では社会システムについて、第二部では「魂」と「心」について、考えさせられ、新たな視点を得られた気がします。
バーチャルリアリティや人工知能といった科学技術の進歩が著しい今、これからの社会を考えるきっかけにオススメしたい作品です。
  
ただ、ラストがスピリチュアルな印象で、よくわかりませんでした...。第二部は哲学的な部分科強いのですが、終盤は特に難しく感じました...。
同じ作者の「アリス殺し」と少し似た雰囲気のラストだったので、何か作者の思想的な意図もあるのかとも思います。また別の作品も読んで考えたいです。

2017年6月11日日曜日

書くのが好きな子に読んで欲しい作品 【星の民のクリスマス】<感想>

第30回三島由紀夫賞の候補に上がっていた「リリース」の作者、古谷田奈月さんのデビュー作です。
第25回日本ファンタジーノベル大賞の受賞作でもあり、元は「今年の贈り物」というタイトルだったようです。個人的には元のタイトルも優しい感じがして好きです。
 
クリスマスに歴史小説家のお父さんからお話をもらった女の子の話です。
自身も書き物が好きな彼女が周囲の人々との関わりで変化していく様子が描かれていて、
是非、書き物が好きな人に読んで欲しいと思う作品でした。
 
全体的には、優しい世界ではあるのですが、戦争や政治といった大人の汚さや、子ども同士故の意見の仲違いなども描かれています。
子ども同士のちょっとした意見のぶつかりでお互いに酷く傷つきあってしまうというのは、私も心当たりがあって、懐かしく感じました。
また、「子どもに出来なくて、大人に出来ないのは教えることぐらいだ」というような台詞があるのですが、
この子どもを軽んじない考え方が特に好きです。
実際、大人に出来ることなら、子どもにも出来ることは多いです。また、子どもを尊重することは、子どもの実力を引き出すと思います。
 
夢を膨らまし、社会の汚さを感じ、子どもを尊重する作品で、是非子どもに読んで欲しい作品ですが、クリスマスがテーマにもなっているので、お子さんに薦める際には、一読することをお勧めします。

2017年6月4日日曜日

百合×SF 【スワロウテイル序章/人工処女受胎】<感想>

<人工知能に会いたくてソシャゲを始めたけど、いなかったので辞めた>という変わった作者プロフィールを見て、手に取った作品だったけれど、予想以上に面白かった......
作品の藤真千歳さんは心理学科卒だそうで、話の隅々にそういったことが織り込まれていて、(難しいけど)リアルなSFに感じました...!!!
科学的なことに限らず、暦や宗教など文化的なことも、いろいろ絡められているので、かなり重厚感のある内容でした...
 
そして、そういった世界観の中で描かれるGL...
とても...尊い百合でした...
「萌える」って言葉じゃ軽率になるんじゃないかっていう感じです...
「社会」と「命」について、いろいろと考えさせられる場面や、台詞が多々あるので、そこがまた作品に重みを与えているように思います!
 
これは序章ですが、シリーズ3冊目(電撃文庫のものを含めると4作目)だそうです。是非他のも読んでみたいです♪

2017年6月3日土曜日

ファンタジーでない成田良悟作品【オツベルと水曜日】<感想>

デュラララやバッカーノなどの同じ世界だけど、ファンタジーではないミステリー作品!
ややアンダーグラウンドな世界であり、善と悪がハッキリしているような、混ざっているような、なんとも言えない感じが現実的で非現実的でした...。
 
私はデュラララをアニメで見ただけですが、知っているキャラがチラチラと出てきて、ちょっと嬉しかったです。
同じ作者の別作品のキャラが登場すると、知ってる人に再会したような気がします。

他の成田良悟作品を知らなくても、楽しめる内容だと思います!
ミステリアスな登場人物、芸能からオカルトまで扱うゴシップ誌、10年前の事件を発端とする殺人事件...と濃厚な設定。
そして、宮沢賢治の「オツベルと象」という近代作品をテーマにするという、凄く私好みな作品で面白かったです。
ただ私は「オツベルと象」は読んだことがなかったので、読んでみようかと思っています! 

2017年6月2日金曜日

終盤への収束感が綺麗【勝手にふるえてろ】<感想>

以前話題になっていた時から気になっていたのですが、話題になっていたのも納得の作品でした。
全体的に、主人公の女性の視点だけで語られるため、序盤は彼女の自分勝手さが目立ち、やや読み難さも感じますが、
中盤から彼女の状況が明確になるにつれ、彼女にどこか親近感すら覚えるようになり、
ラストには安心感と満足感を得ました。

ただ、文庫版に一緒に掲載されていた短編「仲良くしようか」は綺麗でありながらも、怖さを感じる作品でした...。
「勝手にふるえてろ」の爽やかすら感じるラストとは対照的な不安になる話で、込められた意味をいろいろと考えてしまいます。
最後の主人公の台詞は予想がつくけれど、この流れは...
この主人公は、もしかしなくても、作者がモデル...?それなら、この話はやっぱりちょっと怖い...