2017年7月8日土曜日

泣きたくなるほどグロいのに、愛に溢れたゾンビミステリ小説【わざわざゾンビを殺す人間なんていない。】<感想>

先月、6月30日に一迅社から発売された小林康三さんによるゾンビミステリー小説です。
舞台は、死ぬとゾンビのようになってしまう感染症が蔓延した世界。ある研究発表会の最中、一人の研究者が密室でゾンビになるという事件から物語は始まります。
凄く丁寧に論理的に作り込まれた推理小説なのですが、ゾンビモノでもあるので、終始グロテスクな描写があり、苦手な人にはオススメできません。
特に、ゾンビイーター石崎笑里の回想シーンは物凄くショッキングで、思わず本を閉じました...。これは彼女にとっても、震えるほどの悲劇です。しかし、ゾンビの“踊り食い"等を日常的にしてことで、感覚が少しがズレていっていったことも原因じゃないかと感じました。「ルールを守っていれば良いわけではない」「法律は完璧ではない」とは、当たり前のことではありますが、忘れてはいけないことなのだと考えさせられます。
ただ、彼女にはゾンビへの愛も感じます。ゾンビを食べることを娯楽だと言いながらも、他のゾンビイーターよりもゾンビを食べることに対して深く考え、愛を抱いているように感じました。
この作品は、グロテスクで過激な描写だけでなく、登場人物たちの愛情も描かれているのが魅力なのです。
物語の核心になるので、具体的には言えませんが、八つ頭家の秘密と家族愛の描写は、とても丁寧に組み立てられていて、密室トリック以上に読み返したくなる場面です。そして、ゾンビモノとはいえ、読み終えた後は凄くすっきり、ほっこりします。小林康三さんの作品ラストでは、今回のが一番好きです。

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