2018年4月30日月曜日

五人五様の伝奇アンソロ【宮辻薬東宮】<感想>

宮部みゆきさん、辻村深月さん、薬丸岳さん、東山彰良さん、宮内悠介さんの5人の人気作家さんによる伝奇系アンソロジーです。ホラーだったり、ミステリだったりするけれど、どれも伝奇系です。
タイトルは、作家さんたちの頭文字からのようです。
5人中4人は、好きな作家さんだったので、手に取ったのですが、面白かった!
アンソロジーは、ハズレもあるんですけど、これは大当りでした。

薬丸岳さんの作品は初めて読んだんですけれど、凄く読みやすかったです!誰でも楽しめるエンターテイナーな作風という印象を受けました。
他の4人期待通りいや、期待以上の作品でした。あとがきにて、宮部さんは満足のいく出来ではないようなことを言われていますが、ファン的には大満足です!
あとがきは各作品ごとについているのですが、作品とは異なる作家さん自身の雰囲気が出ていて、なんだか可笑しかったです。
また、東山さんと宮内さんは、他の作品と少しリンクしているのも見所です。宮内さんのこのラストで締めるというのが
、何とも美しいです。

2018年4月29日日曜日

最初は全然面白くないけど...【百年泥】<感想>

第157回芥川賞を「おらおらでひとりいぐも」とともに受賞、また第49回新潮新人賞受賞作品でもあります。
芥川賞受賞作品なので、文学作品です。
ハッキリ言ってしまえば、全然面白くないです。前半部分は。
淡々とし過ぎる描写にもかかわらず少し不思議な世界、また、主人公のクドクドと長い語り、そしてその性格などに、ウンザリしました。
変な男に引っ掛かるのも、そのせいでインドに来ることになったのも、彼女自身の性格、自分本位ともいえる考え方が原因だと思いました。
ただ、私は気にくわなかったけれど、彼女のような考え方の人は世間には多いのではないかとも思います。他人に優しくするのは、なかなか難しいことです。

後半部分は、文学作品らしい抽象的な雰囲気ではありますが、面白かったです。
特に、日本語教室のある生徒の過去話と、主人公の過去話が好きです。
主人公の昔の話は、生徒の話への布石のような役目もあるとは思いますが、彼女の幼少期を知ることで、彼女への嫌悪感も和らぎました。
現在を作っているのは、過去の積み重ねであり、今見えているモノは一部分でしかない。
泥から出てきた五巡目の男を取り合う人々。彼らがそれぞれに見ていた彼は積み重なっていないかもしれないけれど、彼には変わりない。
人は表面的な部分以外があるということは当たり前のことですが、忘れがちです。ただ、少しでも心に留め置くことが出来れば、もう少し人に優しく出来るかなぁと考えさせられました。

面白いけれど、、、【月の満ち欠け】<感想>

ある女性をめぐる話です。
恋愛の話ですが、少し不思議な話でもあります。
第157回直木賞受賞作品というだけあって、凄く面白かったです!
ただ、好みではなかったです...。でも、号泣しました(笑)
好みじゃないと言っても、単純に私が好きな雰囲気とは何となく違うというだけです。不倫の部分が気になるのか、年齢差に関する部分が気になるのか...。一体、何が不満なのか、自分でも分からないけれど、好みとは少し違うかなと感じました。
それでも、作品としては素晴らしいです。
テレビドラマを観ているような描写で読みやすく、割りと長い話なのに、飽きさせない内容でした。
なので、純愛モノが嫌いでなければ、オススメです。私は好きじゃないと思いながらも、夢中になって読んじゃいました。

2018年4月25日水曜日

対称的なアラサーコンビのスリル満天なエンタメ【キャプテンサンダーボルト】

ヤンチャなまま大人になってしまった相葉と、真面目で家庭も持っている井ノ原という対称的ながらも、ともに野球をしていた二人の男性が再会し、とある陰謀に巻き込まれるというアクションエンタメ小説。阿部和重さんと伊坂幸太郎さんとによる合作だそうです。
主役二人が真逆なのが面白いところだと思いました。性格だけでなく、行動へ
駆り立てる理由も対称的なのです。
相葉は過去の自分の選択やそれによる母親への負担をずっと後悔しているのに対し、井ノ原にとっては息子が生活の中心、つまり未来を見ているといえます。
この視点の違いと、それぞれの個性が合わさって、キャラクターに奥行きを感じました。
物語展開も絶妙でした。
伊坂幸太郎さんらしい感じで、エンタメ小説といえば、やっぱりこの人だと思います。
そして、これは阿部和重さんとの合作でもあります。
ただ、私は阿部和重さんの作品は初めて読んだので、こちらについてはあんまりわかりません。けれど、また別の作品を探そうと思っています。

また、私は文庫版で読んだのですが、下巻のボーナストラックが好きです。
そして、巻末の佐々木敦さんによる解説に、いろいろとネタについて書かれています。私はいくつか気づかなかった話がいくつかあり、感嘆しました。
これから読む方は、文庫版がおすすめです!!!

2018年4月24日火曜日

猫好きもそうでなくても楽しめる【猫が見ていた】<感想>

湊かなえさん、有栖川有栖さん、柚月裕子さん、北村薫さん、井上荒野さん、東山彰良さん、加納朋子さんという7人の作家さんによる猫のアンソロジー短編!
そして、澤田瞳子さんの猫小説傑作選が巻末に載っています。タイトルだけは知っているけど、猫の出てくる話だったんだぁという作品もいくつかありました。
7人7色のいろんな猫小説で、面白かったです。

湊さんは今までのイメージと違って、穏やか猫目線での話でした。それだけ猫愛が強いということでしょうか?
もしかしたら私が知らないだけで、何か別の話のアナザーストーリーだったりするのかな?

有栖川さんは「火村先生」のシリーズ、「作家アリスシリーズ」です!猫も出てくるけど、いつもの感じの推理小説です。
湊さんとは対照的にブレない感じがまた良かったです!!!

柚月さんの話は、やや哀しめ...。
親子の話が好きな私だけど、これはちょっと重い...。切ないというか、なんというか...。

その後の北村さんの話の方が好きかもしれない。恋愛の小説だと思うけれど、恋愛小説としては書かれていないし、そんなことは起こってなくて、起きる気配も描かれていないのが、面白いのです。ちなみに猫も出てきません!(笑)

井上さんの話も恋愛が物語の中で重要だったりします。ただし、不倫...。
そんな主人公と全く異なるある女性との対比が、新鮮で面白い作品です。

東山さんは台湾生まれの作家さんだからか、台湾が舞台の話。
子ども目線で語られるからか、世界が鮮やかに感じます。行ったことのない国なのに、目に浮かぶようでした。
子どもらしい視点も面白いです。

ラストの加納さんの話はラノベ的というか、今風というか、ダメな男性が主人公でボーイミーツガールな要素もある話です。
全体的にも何とも言えない空気があります。また、これにも親子の話がありますが、この親は嫌いです。特に母親が。でも、作品としては、好きです!

2018年4月23日月曜日

いろんな文体に出会えるけど...【もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら】<感想>

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菊地良さんが以前Twitterでされていた文体模写を、神田桂一さんと一緒に100人の作家さんでされたものです。

そして、田中圭一さんのイラスト模写的な挿絵、プロデュースの石黒謙吾さんも解説を文体模写で書かれています。

2018年4月20日金曜日

本を探すだけでなく...【みんなの図書室】<雑感>

小川洋子さんが本を紹介するラジオ番組を書籍化したものだそうで、ブックガイドのようになっています。

文学作品や世界的名作、教科書に載っているような有名な作品だけでなく、チェ・ゲバラの旅行紀のような一風変わったものまで、いろんな作品を紹介されています。本を読む人もあまり読まない人も楽しめる1冊です。

2018年4月16日月曜日

今回もダブル刊行【水玉ハニーボーイ 8巻】【オネエ男子 2巻】<雑感>

藤くんがだんだんかっこよく見えてきた「水玉ハニーボーイ」8巻!
一部は幻想だけども...(笑)
ただ、仙石さんが頑張っているから、ラブコメ度は増し増しでした♪
晶くんもヘタレなりに頑張ってたよ!(笑)
あと、お姫と学くんのコンビも割りと好きです!カプというほどでなく、たまーに絡むだけだけど、ニヤっとします!
お姫といえば、同時発売の「オネエ男子、はじめます」2巻で屋台のバイトで出てきてた(笑)
更ちゃんも出ていたんだけど、こっちはハニーボーイの柱コメを読むまで気づかなかった...
もっとこういうクロスオーバーして欲しい!!!
オネエ男子の巻末でのコラボも面白かったです!!!
師匠が藤くんへの態度が横柄過ぎてウケるwww
二人のオネエスタイルのキッカケが違うからね!その差がこういうことなんですよねwww
そういえば、今回、組の人たちも登場します。
師匠は他の人に「お家」のこと秘密にしてるけど、これの暴露はシリアスめにして欲しさある...
「高橋さん」が高橋なことと比べたら、今は大したこと秘密じゃないかもだけれど...。この後どういう展開になるか、楽しみです。

2018年4月12日木曜日

笑えて泣ける殺し屋小説【AX】<感想>

2018本屋大賞ノミネート作品のひとつで、また伊坂幸太郎の人気シリーズ<殺し屋シリーズ>のひとつです。
殺し屋シリーズは全部読んでなくても、楽しめるのが、魅力だと思います。シリーズ作品ではあるものの、ひとつひとつの話が完結しているので、無理して、全ての話を読む必要はありません。気になるあらすじや、好きなキャラクターがメインの話だけでも、充分楽しめます。
今回は、優秀な殺し屋なのに、恐妻家な「兜」の話です。妻の顔を伺う家庭での彼の日常が、すごくコミカルに描かれています。
家族について、かなり重点を置いているところが、ポイントです。
兜は、とても良い夫で、父親としてもそれなりに頑張っている様子が健気です。また、息子もそっけなくも、優しいし、両親をよく見ているし、奥さんも兜を見てると憎めないし...読み進めるごとに好きになってしまう家族でした。彼が殺し屋なのを忘れてしまいそうになるほどに...。
笑えて、考えさせられて、泣けて、スリリングな見せ場も有り!という最高な小説でした。殺し屋の主人公とはいえ、彼の信念は「悪」ではないし、読後感もスッキリです。
メッセージ性もありますが、面白くて、読みやすい、娯楽としても凄く優秀だと思います。
大衆小説というのは、こういう作品のことを言うんだろうなぁーという印象の作品です。
ファンタジーほどではないけれど、非日常なフィクションを読んで息抜きしたい人は是非どうぞ☆

2018年4月9日月曜日

デクくんと対称的な...【ヒロアカ 18巻 明るい未来】<感想&考察(ややネタバレ)>

サブタイの「明るい未来」に対して、扉絵のミリオ先輩とサーのツーショットが涙腺に来る...
ネタも満載(特にギャングオルカを含む、講習組)なんだけれど、全体的には、一見やや物足りなさもある巻でした。しかし、何度か読み返して、しっかり話が作り込まれてることに気づきました。
まず、デクくんと死柄木。
二人が対称的な存在なのは、明白だったけど、この八斎會編も実は少し似た状況でした。
デクくんは、オールマイトの後継者候補だったミリオ先輩と出会い、一緒に戦うも、先輩は戦いの中で個性を失い、学校を休学。
一方、死柄木は八斎會と手を組んでいましたが、そのリーダーの治崎の能力が「分解と再構築」。いわば、死柄木の能力の上位互換ともいえる力です。騒動後、死柄木達は治崎から両手を奪い、能力を使えなくします。
自分と似ていながらも上の存在に出会うも、退陣してしまうという展開は、二人とも同じです。
ただし、死柄木が力を奪ったのとは逆に、デクくんはワンフォーオールを譲ろうとしています。
きっと、これがヴィランとヒーローとしての二人の違いなのです。
この二人の対称的な行動は、凄く自然な流れで描かれていて、今後も真逆の方向に二人が成長していくことを感じさせます。
 
順調に進んでいくデクくんに対して、かっちゃんと轟くんの複雑な心境も暗に描かれています。この二人もデクくんと対称的な存在でしたものね...。
ただ彼らも彼らなりに成長していますから、今後もライバルでいてくれるのでしょう。
 
それに、かっちゃんは人気投票で、一位でしたし♪おめでとう!かっちゃん!!
上位10人は、A組ばかりなのですが、その中にオールマイトと心操くんが入ってました!
心操くん!!
本編では、ずっと出番ないのに!!!というか、体育祭の後、出てたっけ???
でも、彼もある意味、デクくんと似た存在なんですよね...。彼も再び活躍するんでしょうか。

2018年4月3日火曜日

語り手の正体への考察【淵の王】<感想&考察(ネタバレ注意)>

舞城王太郎作品らしい、よく分からないけれど、地に足のついたような現実味もある作品です。
「愛」と「女の子」をテーマにした作品が多い印象ですが、今回はそれに「悪意」や「呪い」のようなネガティブなモノが加わっています。
よく「愛」の裏返しとして描かれる「憎しみ」のようなものではなく、「愛」とは関係のない「悪意」です。
 
また、今回は語り手が、誰だかよく分からない。それどころか、どうやら存在していない存在のようです。
3人の主人公による3つの話から構成されているのですが、主人公ごとに語り手も別々です。
ただし、語り手は主人公を含むどの登場人物とも会話せず、ただ主人公達のことを常に見守っています。
私は、最初ストーカー的な人かと思って、ドキドキしていました。
結局、最後まで明言はされていないのですが、私はそれぞれ次の話の主人公がその存在になっているのではないかと思います。
1番目の中島さおりの話のときは2番目の話の堀江果歩が、果歩のときは3番目の中村悟堂が、そして、悟堂のときはさおりだったのではないかと思うのです。
そう考えると、いくつか納得のいく部分があります。
まず、1番目の語り手は、何故かさおりの知らない本についても知っていました。さおりを通じてしか世界と関わっていないハズなのに...。一方、果歩はいくつかの文学作品に触れています。
次に、2番目の語り手は、最期に「自分が引き継ぐ」「闇を食う」と言い残しています。3番目の話で、この闇の黒幕らしき人物は、その後の主人公、悟堂によって倒されます。
その倒す前、物語の佳境に3番目の語り手が、悟堂を連れ、「光の道」を通ります。「光の道」とはさおりが口にした言葉でもあるのです。
もしこれがあっていれば、果歩の話のワンピースの女性は、さおりなのかもしれません。さおりを好きだったから、もしくは彼女の「功績」を伝えようと無意識に描いていたのかも...。
主人公の死を表現するように、消えていくのが、悲しかったけれど、もし私の考察があっていれば、少し救われる気がします。
時系列的に、違和感を感じるかもしれませんが、それについては、2番目の話にて、広瀬くんが言った「本に書かれたモノ」ということなのでしょう。
 
また、このときの広瀬くんの豹変に関しては、黒幕らしき「上半身裸の男」の影響だろうとは思いますが、こちらは確信はないです。グルニエの件を含めて、2番目の話は、少し難しい...。
3番目も「怖い話」の部分が割りと本気で怖いままだったり、斎藤さんが再婚相手の名前を隠したり、斎藤さんがかなり謎ではあります。謎というか、深く考えると、怖い...。悪い人ではないと思うのですけど...。
 
舞城王太郎作品は、抽象的なイメージだけれど、今回は結構理解出来た気がします!
よく分からない部分の説明や、私の考察とは別の意見のある人は教えてくれると嬉しいです。

羨ましくなるダメカップル【劇場】<感想>

劇団の脚本を書くコミュ障な青年と役者を目指して上京してきた服飾系大学に通う女性の純愛小説です。
この主人公の青年は、頭がおかしいと思うくらいに、奇抜な行動を起こします。内面もやや独創的ではありますけれど、傍目から見ると、完全にアブナイ人です。
そんな彼に合わせることの出来るヒロインが優しすぎて、私は最初あまり好きではありませんでした。
主人公を騙してカモにしようとしてるんじゃないかと疑ってすらいました。
 
でも、彼女の台詞に思わず、本を閉じてしまう場面がありました。
彼とのどんな話も友だちに話す彼女に対して、彼が不満をぶつける場面です。
彼の勝手な気持ちをぶつけられながらも、理解しようとする彼女が、あまりにも健気で...。
また、彼は彼女のことを分かっていながらも、彼なりの葛藤があったために、つい彼女に気持ちをぶつけてしまっていることが分かるので、余計に彼女の様子が切なくて、読み進めるのが辛くなってしまいました。
 
その後も、彼のダメ男っぷりは変わらず、周囲からの干渉もあったり、いろいろとあるのですが、優しい結末が待っています。
一見、ダメなカップルに見えるのですが、何故か羨ましく思えました。
お互いがお互いをとても大事に思っているからかもしれません。
ただ表面的には、その一部しか見えないからこそ、いろいろと問題が生まれるのです。
恋愛の話でありながら、純愛小説として描かれているので、そういった部分が凄く際立った作品でした。