2020年7月14日火曜日

絡み合う樹のような群像劇で...:ヴァニタスの手記《8巻 感想》

多くの作品は、主人公もしくは、数人の主役を中心に物語が進み、彼らの心理描写が丁寧に描かれていきます。

もちろん、主役以外の人々の内面も描かれますが、そこに主役の視点や想いがぶつかったり、交わったりして、常に読者の視点の近くに主役の視点があります。

けれど、この作品は主役という視点縛られずに、いろんな登場人物達の人間関係も深く丁寧に描かれています。


この作品の主役はヴァニタスとノエです。

今回完結した獣編では、ヴァニタスが助けたとはいえ、根本的な気持ちの部分はクロエ達、事件の当事者の中で決着しています。

これから始まるドミニク(※表紙のキャラです)の新章は、ノエがキーパーソンではありそうですが、今回はドミニクの視点の葛藤や苦悩が描かれています。

どちらも、主役が他の登場人物の内面を説明するのではなく、それぞれの視点からの内面を描かれることに、彼らが独立した存在である印象を受けました。

悩みや苦悩の全てを、他人に分かって貰うことなんて出来ないのです。

彼らの内面が色濃く描かれることで、物語が大きく広がっていくように感じられます。

物語を木に例えるなら、この作品は、一人一人の登場人物達の想いをしっかりと紡がれていく様子が、ゴムやアコウの木のようだと思います。


また、独立した存在同士であるからこそ、見える部分と見えない部分があるということも表現していると思います。

「恋」の話で、読者の視点は葛藤するヴァニタスではなく、周囲の人々に近いです。

他の登場人物達とは異なり、内面を外から描かれているのは、コミカルなだけでなく、<いつもとは違う側面>ということを際立たせています。


そして、ジャンヌとの関わりにより、隠れていた彼の考えが表面化した話でもあります。
多角的で変動的な内面を持つ人々が構成する社会を、凄く魅力的に描いた作品だと改めて感じました。

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