2018年11月11日日曜日

別世界の話ではなかった...【刑務所の経済学】《感想》

「刑務所の」というタイトルに惹かれて手に取ったのですが、刑務所に限らず、社会全体に対して経済学的な視点を向けた本でした。
犯罪加害者と社会が主軸で、《治安向上のためには前科者はの社会復帰が重要》という話なのですが、他人事の話ではないと感じました。

前半は、経済学や法律の分野のやや専門的な話です。
でも、すごく分かりやすかったです。

比較優位と、埋没費用の話がとても勉強になりました。
「比較優位の考え方」は、個人の能力について、他人より優れているかどうかではなく、《ひとりひとりの能力の中でより優れているものを活かす》。
「埋没費用(サンクコスト)」は、過去の失敗に囚われることなく、今後の利益を優先する。

この2つは前科者に限らず、社会で生きる全ての人に必要な考え方だと思います。
他人より優れている方が良いには決まっているけれど、実際、才能がある人なんて、ほんの一握りです。
ほとんどの人は平凡だったり、どこか劣っていたりします。
なので、失敗もします。
その中でどう動くのが、より他の人のためになるかを考えるときに、この2つ考え方は、大切だと感じました。

後半は、刑務所の具体的な問題や、障害者、少年犯罪、サイコパスなどの話もあります。
この話題に関しても、私は別世界の話には思えませんでした。
刑務官も、犯罪加害者も、その中のサイコパスと言われる人達も、結局はただの人間なんです。
サイコパスにしても、《特殊》ではありますが、きっとそれも個性のうちで、サイコパスだから犯罪者というわけではないんです。
《脳の欠陥が原因》と言われますが、「サイコパス」も障害者に含まれるのかもしれないと私は思いました。
《刑を終えた人達が、再び犯罪に手を染めないためにどうするか》という命題は、《普通に暮らしている人が罪を犯さないため》の方法にも繋がるなぁと、自分の普段の意識を反省させられる部分も多くあり、すごく良い本でした。

ただ、ちょっと作者の感情が詰め込まれているような部分が中盤以降、少しあるなぁと思ったら、あとがきに『時間がかかり過ぎた』『海外視察が出来なかった』ということを書いてらっしゃいました。
そこに何だか作者の人間味を感じて、クスッとなっちゃいました。
作者はそう書かれていますが、かなり膨大な資料を参考にされている凄く良い1冊だと思います。

でも、2011年に刊行されたためか、新品の紙版が楽天では見つかりませんでした。
お店でも、新品は手に入らないかもしれません...。

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