2018年4月3日火曜日

語り手の正体への考察【淵の王】<感想&考察(ネタバレ注意)>

舞城王太郎作品らしい、よく分からないけれど、地に足のついたような現実味もある作品です。
「愛」と「女の子」をテーマにした作品が多い印象ですが、今回はそれに「悪意」や「呪い」のようなネガティブなモノが加わっています。
よく「愛」の裏返しとして描かれる「憎しみ」のようなものではなく、「愛」とは関係のない「悪意」です。
 
また、今回は語り手が、誰だかよく分からない。それどころか、どうやら存在していない存在のようです。
3人の主人公による3つの話から構成されているのですが、主人公ごとに語り手も別々です。
ただし、語り手は主人公を含むどの登場人物とも会話せず、ただ主人公達のことを常に見守っています。
私は、最初ストーカー的な人かと思って、ドキドキしていました。
結局、最後まで明言はされていないのですが、私はそれぞれ次の話の主人公がその存在になっているのではないかと思います。
1番目の中島さおりの話のときは2番目の話の堀江果歩が、果歩のときは3番目の中村悟堂が、そして、悟堂のときはさおりだったのではないかと思うのです。
そう考えると、いくつか納得のいく部分があります。
まず、1番目の語り手は、何故かさおりの知らない本についても知っていました。さおりを通じてしか世界と関わっていないハズなのに...。一方、果歩はいくつかの文学作品に触れています。
次に、2番目の語り手は、最期に「自分が引き継ぐ」「闇を食う」と言い残しています。3番目の話で、この闇の黒幕らしき人物は、その後の主人公、悟堂によって倒されます。
その倒す前、物語の佳境に3番目の語り手が、悟堂を連れ、「光の道」を通ります。「光の道」とはさおりが口にした言葉でもあるのです。
もしこれがあっていれば、果歩の話のワンピースの女性は、さおりなのかもしれません。さおりを好きだったから、もしくは彼女の「功績」を伝えようと無意識に描いていたのかも...。
主人公の死を表現するように、消えていくのが、悲しかったけれど、もし私の考察があっていれば、少し救われる気がします。
時系列的に、違和感を感じるかもしれませんが、それについては、2番目の話にて、広瀬くんが言った「本に書かれたモノ」ということなのでしょう。
 
また、このときの広瀬くんの豹変に関しては、黒幕らしき「上半身裸の男」の影響だろうとは思いますが、こちらは確信はないです。グルニエの件を含めて、2番目の話は、少し難しい...。
3番目も「怖い話」の部分が割りと本気で怖いままだったり、斎藤さんが再婚相手の名前を隠したり、斎藤さんがかなり謎ではあります。謎というか、深く考えると、怖い...。悪い人ではないと思うのですけど...。
 
舞城王太郎作品は、抽象的なイメージだけれど、今回は結構理解出来た気がします!
よく分からない部分の説明や、私の考察とは別の意見のある人は教えてくれると嬉しいです。

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