2018年7月31日火曜日

私好みな“怖い”アンソロ【だから見るなといったのに】感想(ネタバレ注意)

9人の作家さんによる「怖い」話です(一人だけはイラストレーターの方なので、1つはイラストです)。
全貌が見えない噂のような話から、作り込まれた話、また、怖いというより切なかったり、虚しかったり...9人9様の作品です。


ず、恩田陸さんの「あまりりす」。
ある出来事がボイスレコーダーに録音されていたという話なのですが、読み終えてからも、謎がてんこ盛りのままです。
誰が録音していたのか、何のために録音していたのか、誰がボイスレコーダーを落としたのか、「あまりりす」とは何だったのか、そもそもこの出来事は本当にあったのか...。
私は、録音していたのは司会の柴田さんで、長岡先生の死の真実を知りたくて、盗聴していたのだろうと思いますが、そのボイスレコーダーが橋の上に落ちていたというのが、不思議なのです...。
一体、誰がそこまで持ってきたのでしょう...。
そして、ちょっとしたドラマの様なものの撮影だったのかも...とも思わせる内容...。
でも、そうとも言い切れない部分もいくつかあり...
全貌が見えないために、深く考えすぎると、堂々巡りのようになってしまう伝説小説でした。
そんな中で印象的だったのは、「最近の子どもたちは血みどろなフィクションは平気なくせに、虫も注射も苦手」という話です。
たしかに、最近グロやサイコな小説・漫画・アニメをよく見かけます。
フィクションに慣れて現実の恐ろしさを忘れてしまっている現代の人々への警鐘的な意味もあるように思えます。
この結末のように、草葉の影には、小説より奇な現実が隠れているものなのでしょう。
つ目の芹沢央さんの「妄言」は「火のないところに煙はたたない」にも収録されています。
以前から気になっている作家さんだったのですが、凄く面白かったです!
でも、これは虚しい話です...。
「神様は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉がありますが、「乗り越えられなかった人はもういない」とも言えると私は思うのです。
これは、隣人の話なのですが、よくある怖い隣人というだけでなく、勘違いの重なった、虚しい話です。
詳しい内容はここでは避けますが、私は彼女が<自分の才能を使いこなせなかった>ことが全ての原因だと思いました。
もし、自分の才能を理解していれば、もしくは彼女を見極めて支えてくれる人が周りにいれば、霊能力者に頼ることも、虚言癖扱いされることも、こんな最期を迎えることもなかったのに...。
これは、こういう話だけでなく、全ての人に当てはまる話だと思います。
その人にたとえ才能があったとしても、気づかれることがなければ、埋もれてしまうどころか、本人や周りを傷つけてしまうことになりかねない...。
崇史さんにしても、しっかり見ていれば、気づくことが出来たハズだと思うのです...。
とても虚しい話ですが、読みやすい文体で、メッセージの詰まった作品で、私は好きです!

番目は、海猫沢メロンさんの「破落戸の話」。
これはよくわからない...。
ごろつきの知り合い(「破落戸」で「ゴロツキ」と読むそうです)に怪談系の話を聞くという話でいくつも怪談が出てきます。
どれも伝奇的なホラーで、また語る彼自身もどこか意味深、そして結末も意味深...。
おそらく「自分にしか見えないもの」というのが、キーワードなのだと思うのですけれど...。
分かりそうで、分からない...そんな話です。
ただ、Mさんにはちょっとムッとしたので、少し『ざまぁみろ!』とスッキリする結末でした。
 
の次の「とわの家の女」、織守きょうやさんの作品は、切ないです。
織守さんは「記憶屋」で2015年に日本ホラー小説大賞読者賞を受賞されています。
私は「記憶屋」のコミカライズをガンガンONLINEでちょっと読んで、面白かったので、この作品もワクワクしながら、読み始めたのですが、良い意味で裏切られました!
(→記憶屋|ガンガンONLINE
(元々コミカライズはマンガUP!での連載だったようです。→ マンガUP!
見事にしてやられました!!
ある意味、正当派ホラーだと思います!
でも、正直のところ、もっとハッキリ言ってあげればよかったのに...というところでもあります...。
そうすると、またいろいろと話が変わってしまうかもしれませんけれど...。
 
番目のさやかさんは前述通り、イラスト作品です。
タイトルは「うしろの、正面」。
これも、割りとよく分からないラストなんですけど、好きです。
特に表情の微妙な変化が好きです!
ずっと緊張していた顔から、最後にふっと力が抜けるのが、何とも言えないのです!
 
の後の「自分霊」は小林泰三さんらしい話でした。
読後に考えさせられるSFで、余韻が味わい深いです。
女子学生の話なんですが、私も大学生のときに、読みたかったなぁ...というテーマで面白かったです!
ただ主人公の性格が少し気になりました。
堕落的になってしまいがちな安直さと目標への真面目さが同居している不自然な気さ、また何処と無くフィクション染みた言動が何となく気にかかったんです...。
しかし、何度か読み返してみると、寧ろそこが良かったです(笑)
やっぱり作り込まれた作品だなぁと思いました。
 
の次の「高速怪談」。
これは全体的には、面白かったんですけれど、オチが物足りなかったです...。
もしかしたら、私が気づいてない要素があるのかもですけど...。
澤口が怖がっていたのも、ただ怖がりだけだったようですし...
最後が「僕の話」というのは、少し気になるけれど、きっと『最初に気づいた』からなんだろうと思います。
てか、これをもし漫画にしちゃったら、不謹慎でしょ!とか、そちらに気持ちが行ってしまいました(笑)
少し物足りなかったものの、全体的には面白かったです。
また、作者の澤村伊智さんは山本周五郎賞候補になってる作家さんなので、ちょっと他の作品も探してみようかと思います。
山本周五郎賞候補作品は、好みな作品が多いので...。
 
いて、「ヤブ蚊と母の血』。
母親が行方不明になった小学生の男の子の話なのですが、淡々とした彼の様子が面白いです。
物凄く大変な状況なハズなのに、結果的に園芸好きな不良という扱いになってしまうのが凄くシュールでした。
また、孤高の不良というわけではなく、橋本さんという少し心の許せる人が別にいるというのも、ポイントです。
きっと、橋本さんの彼女もアユムくんの母と同じだったんだろうなぁ...。
作者の前川知大さんは劇作家で演出家だそうです。
哀しいテーマなのに、どこか可笑しいのは、舞台作品を書かれる方だからなのかなぁ...
以前、映画化された「散歩する侵略者」も前川さんの作品だそうなのですが、気になっていたので、読んでみようかと思っています。
 
後の「誕生日 アニヴェルセール」はあまりホラー感はないです。
単行本「ヴェネツィア便り」にも収録されています。
北村薫さんの作品らしい、優しくて知的でどこか力強い雰囲気の話です。
ただ戦時中の話なので、やや文体がそちらに寄せてあり、少し読みにくいです。
それでも、病床の主人公の落ち着いた感じが私は好きです。
死ぬことを意識しているにもかかわらず、一歩一歩大地を踏みしめているような雰囲気もあります。
ただ、伝奇系でもホラー系でもないと思うので、どうしてこのアンソロに収録したのかに、少し疑問が残ります。
でも、読後はとってもスッキリです。
もしかして、スッキリ読み終えるためだったんでしょうか。

1 件のコメント:

  1. 素晴らしい考察ですね。特に「神様は乗り越えられない試練は与えないと言いますが、乗り越えられなかった人はもういないのかも」という感想がゾワッときました。ちなみに僕が一番好きな作品はあまりりすだったのですが、実はドラマの撮影でボイスレコーダーだけ橋の上に落としたという説は、頭になかったしとても面白かったです。あまりりすが飛べるっぽいので、録音者たちを殺した後、運んできて飽きて捨てたとかでも怖面白いですね。長文失礼しました〜

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