2018年1月25日木曜日

伝達力のような表現力【羊と鋼の森】<感想(ネタバレなし)>

調律師の話です。また、2016年の本屋大賞受賞作品でもあります。
私は、著者の宮下奈都さんの作品は初めて読んだのですが、言葉の使い方にびっくりしました。表現力というより、伝達力という感じがします。
言葉はそもそもコミュニケーションに使うものなのだから、伝達力があって当然だと思うかもしれません。しかし、言葉だけで人の心を表現することは出来ません。いろんな人がそれぞれ違う世界を持っているけれど、言葉だけでそれを共有することは凄く難しいです。
この作品は、それを踏まえた上で世界を言葉で表現されているように、私は感じました。作中では何度か森の風景が描写されます。綺麗でありながらも、正確に描かれていて、私の知らない光景であることは間違いないのに目に浮かびます。でも、きっと作者の世界とは違うようにも思います。
主人公自身、言葉での説明に悩む場面があったり、登場人物たちがひとつの出来事に対して、考えることが違うという場面が何度も出てきます。
ただこの作品は、そういった個々人の世界の違いや、言葉の不完全さを悪いこととしては書いていません。そもそも、何が正しいというようなこともなく、ありのままを描いているように感じます。その寛容さがとても素敵で、私は言葉を不完全なままでも少し好きになれそうな気がしました。

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