2018年1月9日火曜日

21世紀の個人と社会【彼女がエスパーだったころ】<感想>

第38回吉川英治文学新人賞受賞作品。
現代社会の中での個人や集団を、いくつかの事件の取材を行う記者の視点から描いた6つのお話です。
前半の3つは特に21世紀現在のSNSやマスメディア、それに対する大衆の様子がしっかり描かれています。マスメディアやウェブメディアの動きや市民の振るまいには、クスッとさせられる場面もいくつかあります。逆に、恥ずかしさや後ろめたさも覚えるよう箇所もあり、リアルさを感じました。
事件を煽り騒ぎ立てるメディアや大衆とは、対称的に当事者たちの秘められた想いが丁寧に描かれています。事件の当事者というだけあって、何かしら抱えているわけですが、それを顧みないメディアの動向には、憤りを覚えるとともに、反省させられます。
後半は、怪しい市民団体や、緩和ケアといった20世紀から続く問題を取り上げています。
私は最後の話「沸点」が好きです。気に入ったキャラが辛い目にあってしまう話でもあるんですが...。
主人公の記者のそれまでの事件の後の「谷」のような時期の話で、またある団体の話です。その中で人口の「転換点(ティッピング・ポイント)」が取り上げられるんですが、これは日本の文化の流れの中でも、似たような雰囲気を感じたことがある気がします。在日外国人やGLBT、また時間外労働への意識も、何度か問題として、メディアから取り上げられてからは、それ以前よりずっと多くの賛同者を得ているように思います。それ以前の社会をちゃんと知らないだけだったり、反発している人達が私の思っている以上にいるのかもしれませんが...。
それでも、「転換点」とこの話の結末は、私に少しの希望をくれました。

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